waiting for something

朝、「夏目家の食卓」のビデオ。岸部一徳高等遊民ぶりに洗濯物を乾かす手も止めて見入る。「ポーツマス講和」の報が夏目家に入ってきてがやがやしているときに「どうなりますかなあ」と一徳扮する迷亭先生。高等遊民になりたい。

昼は上野へ。唐招提寺展。寺尾聰の音声ガイドに誘われ、気分は世界遺産。でも唐招提寺は本当に世界遺産なんだ。面白かったのは金堂隅鬼という四体の木像。金堂の軒を支える木のキューブなんだけど、筋肉を隆々とさせて金堂をまるごと支えている必死の形相(まさに鬼の形相)が掘り込まれている。ただその中の一体は江戸時代に作り直されていて、それはあんまりやる気がない顔(と寺尾聰も言っていた)。
そして何といっても鑑真来日までのドキュメントは面白すぎる。学習漫画唐招提寺と鑑真和上物語』も買って、新宿へ行く山手線内で一気に読んでしまう。ここにも吉備真備が絡んでくるんだなあ。

そして夜は「ターミナル」を鑑賞。佳品。多木浩二が『都市の政治学』で言っていたように、まさに空港は国境ゼロの空間であることを思い出した。誰もが何人でもなくなる場所。でもそれ以上に空港とは、待つ場所であるというのが、この映画の通奏低音なのでは。主人公の父親のエピソード、そして主人公の出国と目的そのものなどに絡んで何回も「待つ」という言葉が出てきた。(他にも、薬を待つ父親をもつロシア人を助けるエピソードや主人公の友人のイタリア人がプロポーズの返事を待つ挿話とか)そして中でも、トム・ハンクス演じる主人公がキャサリン・ゼタ・ジョーンズ演じるヒロインに「waiting for something」と強く語りかけるのは印象的だった。
なるほど人生とは、待つことにほかならないと勝手にじんわりしてしまったのだった。

今日に強引にくっつければ、
鑑真は苦節12年、失敗を重ねながら渡日を待った。
阿部和重は10年、芥川賞を待った。
ということだ。