父の肖像、ミカドの肖像

猪瀬直樹ミカドの肖像』を読みたくなって探したら、「猪瀬直樹著作集5」のかたちで池袋リブロにあった。リブロでは先日、辻井喬『父の肖像』も買った。別にこれらを西武で買うことにこだわっているわけでもないんだけど。
『父の肖像』は読むのに一苦労。やはりこのこのご時世、ノンフィクションに読めてしまう。途中で実在しない登場人物の「摂緒」という女性が出てきて、一気に恭次(喬=清二)の母探し物語になっていくんだけど、フィクションとノンフィクションのあわいを渡るような感じ。
読んで行くと、まあ分量(630ページくらい!)のせいもあって意識が混濁してくるんだけど、じつは視座の問題でもある気がした。というのも三人称視座で書いたり、一人称視座で書いたり、文体がうろうろしているので。そこが家族から疎外されていると感じていた「恭次」の〝異邦人〟っぷりを醸し出していたりするわけですかね。

ミカドの肖像』は思っていたより読まされた。まだ第一部しか読んでないけど。
プロローグの「東京海上ビル」が99.7メートルになったことをめぐる話、天皇原宿駅(これは原武史の文章でそれとなく読んではいたけど、「スジ屋」の話は楽しかった)ときて、本題のプリンスホテルの話。東久邇宮稔彦が出てきて、おぉ〜とわくわくしてしまう。
プリンスホテルは戦後まもなく、臣籍降下した皇族の所有していた土地を格安で買うことで発展できていくんだけど、朝香宮家(千ヶ滝プリンスホテル)や李王家(赤坂プリンスホテル)、竹田宮(高輪プリンスホテル)、北白川宮新高輪プリンスホテル)と違って、一筋縄でいかなかったのが、品川駅前にある東久邇稔彦の土地。
さすが東久邇宮というべきか。賜った土地に家を建てれば土地登記もされて所有がはっきりしていたのに、それをせず、家を建てるお金で遊んじゃったらしい。それで土地の所有権を登録してなかったもんだから、戦後に国有地になってしまう。
東久邇宮は国に対して所有権確認を訴えたりドタバタになり、「国土」の思うような格安で買うこともままならなくなってきた。一方、品川はわがお膝元と自負する京急はなんとしても品川駅前にホテルを建てたい。いま「ホテルパシフィック」が建っているのはこの東久邇宮の土地。とてつもない労力と金額を使っての入手になった。けれど、「高輪」「新高輪」を後ろにして、品川駅の正面に建った「ホテルパシフィック」は京急の面目躍如たるところ。
堤康次郎をしても一筋縄ではいかない東久邇宮稔彦なのであった。

…とまあ、そんな感じ。
品川にそんな物語があって、あの東久邇宮が一枚かんでいたとはねえ。