欧州歴訪

2日から9日までヨーロッパを巡った。

8/2(火) テッサとカエラに似た女

朝6時の特急で成田空港に行かなきゃならないのに、4時までワーワーやっていたので、あぶないところだった。海外旅行の飛行機逃しなんて泣くに泣けない。でも帰宅して、ふと寝ていたりしたら……。怖い怖い。成田のチェックインを待つ行列。前にいた女性(年上だろうか? 年下だろうか? 判断がつかないタイプ。テッサ・モーリス=鈴木木村カエラを足して二で割った感じの顔立ち)と「アムステルダムですか?」「いえ、アムス経由でロンドンへ」などと話しながら列が進むのを待つ。やはり睡魔が容赦なく襲い掛かる。案の定、デジカメを忘れているなどミスに気づき始めたのもこのころ。KLMにてアムスへ。角田光代空中庭園』読み始めたら1ページ目に「アムステルダム」と出てきて偶然に心躍る。機内食はやっぱりうまい。チキン麺、カップめん、ピラフ。隣に座ったのはイスラム系のいい人。肉が食べれないらしく、ご飯のときにしきりに「What is this?」と聞いてくる。アムステルダムスキポール空港には同日三時ごろ到着。電車でアムステルダム中央駅。ホテル探しにトランクケースをゴロゴロ言わせながら奔走。友人のおすすめのホテルを見つけ交渉してみると空いてた。ラッキー。川沿いに林立するマンション(同潤会アパートみたいな感じ)にブティックやらホテルやらギャラリーやらカフェやらなんでもかんでも入ってる町並み。中目黒みたい。ホテルの裏手にあった切手屋を物色して(日本の切手は手に入りづらいと言っていた。もってくればよかった)あまりにも量が多すぎて美味しくないオランダ料理(冷め気味のビーフシチューとか豆とか)にがっかりして、なかなか暗くならないヨーロッパの夜をやりすごす。

8/3(水) アムステルダムでビール瓶の了見になる

アムステルダムは小さな街。主要な足はトラム。そのトラムに乗ってミッフィーショップにいったあと(オランダ語ではミッフィーと言わずナインチェだそう)、ゴッホ美術館に行く。ゴッホの最晩年の絵を見ると、ああ狂っていると感じる。青い絵の具でぐるぐる渦を巻いている町。そうとしか見えなかったんだろう、彼の世界は。そんな狂気の発端がゴーギャンとの訣別だったとは知らなかった。そのゴーギャンマダガスカルに行きたかったけど貧乏なので行けなかったエミール・ベルナールという画家が興味深かった。のちにゴーギャン肖像画が背景にある自画像とか描いてる。よっぽどゴーギャンを慕っていたんだろう。そのゴーギャンもベルナールの肖像画のある自画像を描いている。なんか怪しい感じもするんだけども。小雨を気にしながら国立博物館をサラーッと見て、ハイネケンビールの施設に行く。こういうアトラクション施設はあんまり一人で行くもんでもない。ビール瓶がお客に供されるまでを体験できる「ビール瓶の了見になれる」へんなアトラクションとか、ひとりでやっててもねえ。やったけど。あといろんなゲーム施設があるのにほとんどアウトオブオーダーになってるのはいかがなものか。でもお土産でビールグラスをもらったのでうれしい。となりにあるカフェでオランダ名物コロッケをたべる。日本のコロッケのほうがいいね。この国にはコロッケの自動販売機もある。意外とはやく回れたので、予定が空っぽになってしまう。街をぐるぐるする。ハーゲンダッツをたべておなかを壊してみたりする。トイレは有料なのでこれまた腹が立つ。飾り窓地区という、ドラッグとセックスの街を歩くと、まだ明るいうちだから(と言っても8時半くらい)大丈夫だった。何より怖かったのは地下鉄。せっかくだからとニューマルクト駅から中央駅まで乗ってみるが、なにしろ誰もいないし暗いし、ホームの壁やガラスがこわれたままだしでこのたび最大の恐怖に襲われた。よく考えたら物騒な地区だけ地下鉄が通ってる。中華料理屋でゴムみたいな麺にがっかりしながら夜を待つ。11時くらいにやっと外が暗くなったので、王宮のライトアップを見に行ったのだがしてなかった。がっくし。ホテルでテレビをつけると、「この番号に電話すればこの娘に会えるよ!」みたいな電話番号と女の子の姿が延々と流れているチャンネルを発見。さすが性の開放国ネーデルランド

8/4(木)束の間ブリュッセル

アムステルダムの朝の冷気は気持ちいい。そうはいっても中央駅のキオスクで丸出しエロ本を見つけるとパラパラみてしまう。後から考えるとやっぱりオランダのエロ本は種類も豊富で(制服ものもあった)イギリスやベルギーといえばずいぶん質素なものだった。何よりびっくりしたのは日本のエロ本も並んでいたこと。『GOKUH』と名前は失念したんだがアキバ系萌えエロ雑誌があった。そんな感慨深いものを抱きつつオランダ鉄道に乗ってブリュッセルへ向かう。途中、ロッテルダムアントワープなど有名な町を通過。町を抜ければどこもかしこも広大な草原。街が中目黒なら郊外は中湧別である。車内で『空中庭園』読了。まもなくブリュッセル南駅に到着。晴れていて暑いくらい。さっさとホテルを探してチェックインし、安ホテルなのに意外とちゃんとした広い部屋なのでよろこぶ。ブリュッセルは1日しかいられないので急いでまずはマグリット美術館へ急ぐ。が、郵便局が見つからなかったり、両替がうまくできなかったりで大幅な時間ロス。タクシーのおっちゃんはいい人で、目的地以外の観光地を案内してくれる。(でもぼったくりではなかった。降りるときさすがに時間をかけすぎたと思ったのか代金はいらないとかいっていたから。でもそういうわけにはいかないのできちんと払った)ブリュッセル万博(明治のころらしいが)で展示された日本塔やら中華廟やら見る予定のないものをみた。で、マグリット美術館にはたどり着けなかった(おっさん「OK」とかいいながら途中で道を通行人に聞き始めたから、まずいと思って降りたのだ。観光地を案内してくれたのはうれしいけど、きちんと目的地までたどり着けないのはいかがなものか、という抗議をしたかったがいかんせん語学力ないし)。あきらめかけたんだが、トラムの線路をたどったりしながら道を行くとマグリットの絵に出てくるような木々が見えてくる。これは勘がよかったのかそのとおりで、近くまで来れた。あとは人のいいおじさんに聞くと「フォロー・ミー」ってことで連れてってくれた。住宅街のなかの長屋マンションみたいなもののなかにひっそりとある「家」が美術館になっている。ピンポンをおじさんが押すと、なかからお姉さんが出てきた。ここはマグリットが晩年ほんとに住んでたとこらしい。そんなことも知らず、ただガイドブックのふろく地図にかかれてたのを頼りにしてただけなので、感激ひとしお。絵によく出てくる暖炉や窓や、壁の色や電灯がそこにある。人間感激すると語学力が瞬間的にアップするらしく、お姉さんの説明もわかるし、質問とかもしてたりする。ここはこの旅での大きな収穫。ダッシュで中心部にもどり、しかし道に迷い、王立近代美術館はあと30分しか開きませんとのこと。しょうがないので現代美術コーナーだけ駆ける。後から失敗に気づいたのだが、見たかったアンソールの絵は19世紀のものなので近代コーナーにあったらしい。悔やまれる。また今度いつか行かねば。夜はベルギーなのでビールをカフェでのむ。夜はいつまでたっても明るい。のでなんか感覚がおかしく、たった二杯でうつらうつら。外なのに不注意な海外旅行者である。ワッフルも食べなきゃと、帰り際食べる。結構表面がこんがりしてた。ホテルでエド・サリバンショーみたいな、いかにも海外っぽいバラエティーをなんとなく見てなんとなく笑う。

8/5(金)これはシュトックハウゼンではありません

朝、南駅(かなり現代的なつくり。空港みたい)からユーロスターでロンドンはウォーター・ルー駅へ出発。飛行機に乗るときみたいに出国審査みたいなのがあって、しかも時節柄とても厳しい。ア・リトルというより唖・リトルな英語なのでしどろもどろ。審査官のおじさんもしょうがねえなあこの東洋人という感じ。そのあとパスポートにはんこ押す係のおじさんは「ホッカイドウ? ビューティフル」とか言うのでうれしい。ユーロスタービジネスクラスとめかしこんでみたが、座席の向きと逆方向に進むし、思ったより広くもないしアテンダントのおばさんはちょっと愛想なさすぎだしで、がっかり。ドーバー海峡を気がついたら越えていてロンドン市内。キャブに乗っていとこの住むもとへ。ロンドンの郊外ときくと「ハーマータウンの野郎ども」というかんじなのだが、赤いレンガの家々が並ぶきれいな町だった。ノーザンラインからピカデリ−ラインに乗り継いでロイヤルアルバートホールを目指す。ピカデリ−ラインはテロの中心地ラッセルスクエアを通る。ぞわっとしたが、街は明るい。V&Aギャラリーで時間つぶす。水辺でひとり、靴下を脱いでプチ行水。PROMS30はチャイ子、マーラーシベリウス。ゴーセンバーグ交響楽団デンマークの)、指揮はなんと24歳の若造グスタヴォ・デューダメル?。ところがチューニングも終わり、指揮者が出てきたところで「ピョロルリ〜」というマイクのハウったような音がホールを支配しちゃった。「ピ〜〜」。10分くらい埒があかず、結局指揮者がいったん退場したり混乱の態。「ピ〜〜ュュゥ」で30分40分、と観客の一部グループが声を合わせて「ラジオをお聴きの皆さん! ただいまお送りしておりますのはシュトックハウゼンではありません!」というようなことをシュプレヒコール。面白いねえ、こういうところが海外にきたなあと実感させられる体験である。1時間おしで始まったがつかれてしまって、ほとんど寝てた。もったいない。

8/6(土)ロンドンは子守三昧

ゼミの先生に会いにゆく。先生の運転でご一家とともに郊外のパブへ昼食に。鶏肉をベーコンで巻いたものをいただく。うまい。ぬるい黒ビールでしたたかに酔う。こんなテーマで新書書くのはいかがですかとかためしに言ってみると乗ってくれる。お宅にもお邪魔する。お子さんとお店やさんごっこしたりする。ロンドンにきて、いとこのこどもとスターウォーズごっこしたり、お家ごっこしたり、ごっこごっこのロンドンである。白ワインなどごちそうになり、郊外の庭付き一戸建てをうらやましく思いながら、うまい空気を吸いながら心持がよくなってゆく。夜は再びPROMS。
ティペットとかエルガーとか、オールイギリス音楽プログラム。指揮は尾高忠明。演奏は13〜19歳まで限定のロンドンっ子オーケストラ。堂に入った演奏でございました。取った席が断崖絶壁みたいな怖い席だったから気が気でなかった。エルガー交響曲第一番って意外と退屈なのね。いとこの隣人のユダヤ人がお誕生日とのことでパーティに参加。いっぱいいっぱいで英語をしゃべりコミュニケーションする。競馬の話のときだけうまいこと単語が出てくる。

8/7(日)やっぱりわかる絵がいいのである

美術館三昧。まずテートブリテン。ここはターナーがたくさんある。ターナーと旅行ブームの関係が知りたかったのだが、なるほどということだった。つまり、英仏戦争(1793−1815)がミソなんですな。戦争中は鎖国状態になる。と、自然と「国内」の移動が多くなる。国内の旅行が多くなると、意識的に「風景」が見えてくる。風景の発見である。そんなんであるから旅行ブームに応じてイギリスの川を紹介する『Tuner’s Anual』というガイドブックシリーズも商業出版されたりする。ターナーはイタリアに旅行したときにも大聖堂の絵とか描いてガイドブックめいたものを作っているが、国内旅行に目を向けさせた、いや国内の風景に目を向けさせた画家の一人なのである。いわばディスカバー・ブリテン・ブームの仕掛け人ですか。絵は実は未完成のものが多く残っていて、もやみたいなものがモヤーっとしてるだけの絵とかが多かった。空気を描いているという感じ。特別展「英国の風景」は思ったよりよくなかった。次はコートールド美術館。これは穴場。おすすめ。おすすめって誰に向かっていっているんだろう、ってとこがブログだね。とにかく教科書掲載級の超名画がたっくさん。ゴッホの自画像、モネマネ、セザンヌゴーギャンも。いやあ、印象派はよいよ。きれいだもの。ブリュッセルの王立で見た現代美術はうっとりはしないもんなあ。わかるものが安らぎますなあ。それにしてもドガドガがよかった。ドガの彫刻は肉体美の発見をしたドガの喜びに満ち溢れている。「動く」ことをどう芸術化するか。映画時代に入ろうとしてたこの時代のドガの目線がかっこいいと思う。そしてそして3年ぶりのテートモダン、は時間がなかったので買い物だけ。『TATE MODERN the handbook』、鉄道写真集『railway』、あとすごいのはロンドンの地下鉄の乗り方とかマナーとか歴史ともろもろをイラストや写真で紹介してる『ONE STOP SHORT OF BARKING』(メッカ・イブラヒム)。よい買い物をしたが重い。いとこと美味しいおしゃれな中華ダイニングでごちそうになる。こども、ショウロンポウだけ食べてる。

8/8(月)オランダ航空の思わぬ奇襲攻撃

というわけで出立の日がやってくる。東下りである。朝、NHKを見ると(ケーブルテレビでNHKが受信できるらしい。ロンドンの日本人向けチャンネルは変に充実していてプロレスチャンネルもあれば、なぜか今「風雲たけし城」をやってるところもあるという)ちょうど参議院で郵政法案採決やってる。ぼんやりみてるとあっという間に開票になって「青票」がたくさんあるのが大写しになったりする。(と同時に青票ってどっちだっけ、と考え込んでしまい、その瞬間にちゃんとした反応ができなかったことが悔しい)テロップで「郵政法案否決」と出るから、じわっと鳥肌が立つ。リアルタイムでの大きなテロップに私は弱いのだ。臨時ニュースとかにも弱い。おにぎりをご馳走になって、子供たちが寝てる間にお兄さんは家を出た(こどもたちはどんな反応をしたかきになる)。タクシーは鳩の死骸や電柱にぶつかったばかりの自動車を傍目に見ながらヒースロー空港に一直線。予定よりも早く着く。余裕でアムスへ行き、アムスから成田である。アムスの空港の売店はアダルトDVDが充実しすぎていてやっぱりオランダである。日本の裏ビデオもあったけど知らない人だった(知らないから裏なのか)。飛行機の中で日経を読むと一面に森喜朗が缶ビールもってる写真があるのでオヤと思う。見出しは「説得も泡」。なんだろうこの週刊文春の「今週のことば」みたいな見出しはと思って読み始めると、森が「日曜日に官邸で小泉に解散は止めるよう説得したが聞く耳をもたなかった。缶ビールは底をつき、干からびたチーズとサーモンを出された」と記者団に語ったというもので初めて日経を読んで笑う。両隣が空席だったので気分はビジネスクラス。寝転がって庄野潤三夕べの雲』読む。機内ビデオは「ミリオンダラーベイビー」。画面しか見ずにクリント・イーストウッドの声を「ぶらり途中下車の旅滝口順平に、モーガン・フリーマン広川太一郎になんかしちゃったりなんかしてたら笑いがこみ上げてくる。そのあと「GAG」というオランダ?の「いたずらウォッチング」みたいな番組が流れていたので(到着まであと1時間とか中途半端な時間だったのでこういうどうでもいいコンテンツが流されたのだと思う)見てたら、あまりにもバカすぎてツボにはまってしまう。バグパイプ演奏のおじさんのスカートからパンツがずり落ちてきて通行人のおじさんおばさんが「すごい困ってる」映像とか見てるとどうしようもなくなってきて毛布で口元を隠してとにかく笑いをこらえるのに必死だった。KLMオランダ航空もひどいことをする。

8/9(火)まずはおろしそば、そしておくらカレー

あの、入国検査までの道のりが好きだ。とても静謐なので。荷物を待っている間、空手道場の一行なのかやたら子供たちが「オッスオッス」言わされてる軍団に出くわす。師範なのか変なところの指導者なのか知らないけど赤い短パンに赤いタンクトップを着た角刈りのおっさんが気持ち悪かった。日本だなあと思う。成田空港駅のキオスクに目をやると「衆議院解散 9・11総選挙」の文字が新聞に躍ってる。やあやあ、帰ってきたよという感じである。昼食を住まいの近くのそばやでとる。おろしそば。フジの中村仁美ベッキーをバッキーといい間違えてへんにうけてしまう。荷物の整理などをし、おくらカレーをいただく。