伝説の演奏会

マンションの問題がずいぶん大々的であるなあ。エセ耐震構造とかなんとか。あの一級建築士小倉千加子に似てないか。

『紀元二千六百年奉祝楽曲発表演奏会』という印刷物が国立国会図書館にあった。激しく興味を抱いて閲覧すると、立派な箱(硯箱みたいな)に入った重厚なものが出てきた。プログラムと演奏された作品の楽譜だった。
昭和15年、1940年の12月7日と8日の二日間、歌舞伎座で行われた「演奏会」はこの日のための特別編成「紀元二千六百年奉祝交響楽団」によって演奏された。宮内省楽部、東京音楽学校管絃楽部、新交響楽団、中央交響楽団、星櫻吹奏楽団、東京放送管弦楽団、日本放送交響楽団の7団体から選りすぐられた165人の「全日本音楽代表」である。
もともと、この年の2月に外務省通じて各「友邦政府」に「慶祝の辞を言葉ならざる言葉たる音楽を以て受けたき希望」を伝えたことがはじまりだった。5月9日、ハンガリーからヴェレッシュ・シャンドール作「日本紀元二千六百年に寄するハンガリア国民の祝頌交響曲」、7月20日ドイツからR.シュトラウスの「大日本帝国の紀元二千六百年に寄する祝典音楽」、フランスからジャック・イベール「祝典序曲」。8月9日イタリアからイルデブランド・ビツェッテイ「交響曲イ長調」が届く。日本側は「これこそ、誠に、神武天皇の八紘一宇の大理想の具体的表現」と喜びにむせぶわけだ。なかでもシュトラウスの作品が「途方もない大編成」だった。打楽器12人必要って。なので165人の特別編成にしたという。
練習は新響の斉藤秀雄が担当した。30回数回練習した。そして、12月7日午後1時、演奏会は開かれた。
宮城遥拝、武運長久祈願と戦没将兵黙祷、君が代奉唱、奉祝会会長近衛文麿公爵による挨拶。
演奏は山田耕筰指揮によるイベールからはじまる。橋本国彦指揮シャンドール作品。ガエタノ・コメリ指揮ビツェッテイ作品。最後は165人によるシュトラウス「祝典音楽」をヘルムート・フェルマーの指揮で。

言ってしまえば史上まれに見る「異常な」演奏会である。聴いた人(選ばれた人たちなんだろうけど)、演奏した人、セッテイングした人に証言を聞いておきたい。しかしそのまえに、音を聞いておきたい。たしか武蔵野音大に音源があったとか聞いたんだが……