小谷野敦の反駁藝

夜中に『帰ってきたもてない男』を読み始めたらとまらなくなって一気読み。『もてない男』はじつはけっこう理解できない(難しくて)ところがあって、十分消化しきれていないところがあったのだが、今回のは前回よりもゆるいので、エッセイとしてサラサラと読んだ。エッセイスト小谷野敦の真骨頂かどうかは分からないが、上野千鶴子への「反駁」は藝の域に達していた。おかしくておかしくて、こんなに笑う本だとはおもわなんだ。随所に現れる愚痴ともつかぬつぶやきや、脱線情報(コンドーム装着前の前戯についての危険性を突然語りだしたりする)、そして落とすところは落とすという落語好きにはなんともスーッとする文章がよくて。あとがきには谷崎潤一郎よろしく「七ヶ条の求婚条件」まで載せてる。これが条件厳しすぎで、おそらく日本には現存しない人種の女性ではないか。
ところで、今回の本は石井正之という人の『肉体不平等』という本に触発(ポジティブな触発ではない)をうけて書かれたという。石井本曰く「身体コンプレックスのあるものはスポーツでその原因が解消されるなら、躊躇することなくスポーツに励めばよい」とのこと。いわばスポーツルサンチマンの気持ちが少しも分かっていない。そして前回では自分がスポーツ音痴であることはあまりにも真実で書けなかった、という。そんなわけでじゃあ、もてる男ってどんなのよ、と古今を紐解いていくあたりも面白かった。
離婚仲間として枡野浩一にも触れ、そこから近松松江に飛ぶあたりなんかも、何とも言えず愉しい。
そして、読んでいたら落語とクラシック音楽が好きでスポーツができなくて(特に球技)…といったあたり、小谷野敦と似ている箇所がいくつかあると気づいた次第。小谷野度チェックシートみたいの付録にあればいいのに。意味ないけど。