坪内祐三『一九七二』

本棚に置いたままの『一九七二』を、ちょうど安田講堂赤軍派との絡みに興味が出てきたので、そういえばあさま山荘事件について多く書いてあったし、と思い立って読み始めたらとまらなくなった。読書の愉しみを久々に満喫した気分だった。とかく運動がどうの主義がこうのというはなしだから、日本赤軍の話は読まず嫌いだった。けれど『一九七二』はあさま山荘事件に関わった(そして生き残った)人物の回想、すなわち永田洋子『十六の墓標』、坂口弘あさま山荘1972』、植垣康博『兵士たちの連合赤軍』、坂東国男『永田洋子さんへの手紙』を引きながら、あくまで人間くさい彼ら彼女らの感情を丁寧に掬い取る試みをしていた。なんだそうか、革命がどうのこうのいう世界の話ではあるけれど、結局は実に人間くさい話なんだなと思った。たとえば「遠山美枝子のしていた指輪」などの章を読むと。
さらに、ああ歴史とはこういう記述を待っているのかもしれないと思ったのは、連合赤軍の本拠だった榛名ベースを植垣康博らが燃やしたその日、「一九七二年二月六日、さらに寒冷の地で、もう一つ別の『火』がともされていた」と、歴史をドライブする感覚で札幌オリンピックの話に動くあたり。

倫理教師Nの家からの帰り、新宿のタワレコで30分迷って成瀬巳喜男DVDボックスを購入。かばんやでトランクケースの小さいのを買って旅の準備はほぼ完了する。