「メゾン・ド・ヒミコ」の傷を「愛についてのキンゼイレポート」で癒す

渋谷シネマライズには行列ができているのである。犬童一心の最新作「メゾン・ド・ヒミコ」はここでしか公開されていないから。13時40分の回に入場できなければ、16時30分の回にまわされるのだが、それでは18時半の約束に支障が出るので困る。とにかく、並んでみる気合が無駄にならないように星野智幸アルカロイドラヴァーズ』読みながら祈る。
でまあ、結局一番前の列で観ることになる。柴咲コウオダギリジョーがずいぶんと長いキスをする映画。または「また逢う日まで」にあわせて楽しそうに柴咲コウが踊る映画。もしくは冒頭に登場するコウの働く塗装会社のおねいちゃんがやたらとエロい体(とくに制服の襟元から覗くネックレスがやらしい)をみせるのでこっちはどぎまぎしてしまったという映画。「ジョゼ」のような犬童作品を期待して見に行ったらそんな感想しかもてない映画なのであった。純文学的作品なのだが、平坦。何箇所か笑えたのが救い。最後のほうにバスが出てくる。循環バスだ。この循環とかそういうのがテーマだったりするのだろうか。

夕方、御茶ノ水で用を済ませ、池袋の立ち飲みバーでオニオンリングをつまみにビール。そして豊島園まで西武池袋線で行き、「愛についてのキンゼイレポート」のレイトショーを観る。ここは意外と近いにもかかわらず新しいつくりにもかかわらず、穴場なのではないか。まあレイトショーってこともあり貸切に近い形で鑑賞。映画にしてもドラマになるのかという題材と思ってたんだが(キンゼイ博士の生涯をなぞるだろうから)、そんなことはなく、また性器そのものの映像が出るからってんで話題にもなったりしているんだが、それは微々たるもので特にセンセーショナルな感じでもない。意外としっかり物語にしているのでちゃんと飽きずに観てしまう。禁欲的な家庭に育ったキンゼイ。そのキンゼイの父は息子のしている背徳の研究に怒り心頭なのだが、そんな父が息子の面接調査に協力したときにふと見せる、意外な過去。そんなところに物語があり、満足。ただ、キンゼイに反抗していた息子は結局父の研究に理解を示したのだろうか。数学者ジョン・ナッシュを描いた『ビューティフル・マインド』はナッシュの家族がその後も「子供」によって大変な人生を送ったことを避けて物語化していた。さて、キンゼイ博士は、と思ってしまうのである。