夢を与える

日曜日に府中市美術館へ駆け込む。気にしていた「浅井忠と関西美術院展」の最終日。見てよかったなあと思った作品は、黒田重太郎「閑庭惜春」、須田国太郎「村」。黒田作品はタキシードの父と着物の母娘(たしか)と犬が庭で並んでいるんだが、みんな視線がどっかに飛んでいて、背景の緑が変にみえる奇妙なところが面白かった。須田作品はピンク紫な色調で村の屋根屋根がフェルト生地のようなぼわぼわ感で描かれている。キュビズムだなあ。この展覧会は京都市美術館に引き継がれるらしい。チラシが傑作。カタログより完成度高い。
「群像」11月号、評論で太いのが二本。加藤典洋「太宰と井伏」は未読。原武史「滝沢コミューン一九七四」は私小説的な雰囲気もあって面白いですぞ。あと「文藝」冬号は新芥川賞作家伊藤たかみの特集だが、伊藤たかみの前(中村文則)の前(阿部和重)の前(モブノリオ)の前の芥川賞作家が芥川賞受賞第1作ということで「夢を与える」で復活の体である。こういう新境地か、というかんじ。社会にコミットしようとしたんだろうけど、この人の作品の好きなところは「蹴りたい背中」の「ハツ」と「にな川」が保っていたような〝距離感〟の書き方だったんだけども、今回はそれが薄れた。描く時間がロングスパンなのも初めての試みだし、背景(芸能界!)を書くというのももちろん初めてで、彼女独特の濃さが希釈された気がしてならない。ただ、うまいっちゃうまいわけで、隠れ前作の「You can keep it.」でテーマにしていた「与える」ということをちゃんと考えたんだなとは思う節々がある。きっちりおとしどころをつけている話の作り方もいいんだけど、しかしこの人にしてはずいぶんやな感じに終わったなあ、と思った。そのへんやはり、社会に背景を開いてみた分の損失じゃあないか。あと、けっこうなシーンがあるんだが、そこに「股が割り開かれて夕子の小さい筋肉が」という部分が出てくるんだが、これは「すじにく」? ちくま文庫の「官能小説用語辞典」にはなかった。ついでに、この作品で「リーク」という言葉が何回も出てくるが、この言葉は浮いてる。
談志独演会@東京フォーラム。「やかん」「居残り佐平次」。「左平次に乗り移ろうとしたんだけど、どうもねェ」って終わったあとに反省してたが、憑依していたところはあったような気も。まあそうでも考えないと、行ったのにもったいない。しかしでかいハコで落語というのは大変なことである。